多くの院長先生から保険診療制度に関する悩みとして、次のようなお話をいただきます。
- 歯科の医療保険制度の展望などを考えると、明るい未来が見えない。
- 2、3年前からレセプト枚数が徐々に減ってきている。
- 保険点数の改正や指導に対してナーバスになる自分が嫌だ。
- 固定化した高齢患者のみになりつつあり、まるで老人ホーム。将来が心配。
- 保険は忙しいので、自分もスタッフも疲弊する。
- 特徴が何も無い医院であり、今後の経営に明るい材料は乏しい。
一方で、「自費に興味はあるが患者さんにどう勧めていいか分からない」「自費は月によって売上の乱高下が激しく安定しないので保険に頼ってしまう」「インプラントが単発で終わってしまい、フルマウス(全部の歯の治療)にならないケースも増えてきた」などのご意見が目立ちます。
保険診療を取り巻く環境が年々厳しさを増していることは周知の事実です。レセプト(医療機関が市町村や健康保険組合等に請求する医療報酬の明細書)単価が10年前や20年前と比べると大きく下がった一方で、ディスポーザブル器材の使用やインスツルメントの滅菌など保険点数が取れないコストは増大、一方で領収書の発行や治療前のインフォームドコンセント(正しい医療情報を伝えられた上での合意)など、やるべき業務が大幅に増えています。つまり保険診療は以前よりも単価が減少しているのに対して付帯業務量が増えているというのが実態です。
これに対して自費診療は患者さんに対して納得のいく治療がしやすいという面に加えて、時間的なゆとりが出来る、将来性がある、面倒なレセプト作業や指導監査のストレスが無い等、様々な利点があるため、多くの開業医が自費診療に憧れを抱きます。また自費診療はその内容にもよりますが、保険診療ほど人員数を要しないため人件費を抑制でき、同じ売上でも利益が残ります。
しかし、自費診療の必要性を頭では理解していても自費診療に積極的になれない開業医の方が少なくありません。その一番の理由は「患者さんから営利だと思われ嫌われたくない」でしょう。そのお気持ちはよく分かります。私自身が若いころは「自費の医院=儲け主義」と頭から信じていましたから。でも人は自分の所得が上がっていく中でよけいにお金を支払ってでも良いサービスを受けたいと思うようになります。恐らくあなた自身がそういう感性をお持ちの方でしょう。自費の必要性として、自費が上がらないだけならまだ良いのですが、自費対策が出来ていないと保険診療も減収になっていく傾向にあります。次の2つの表はNPO地域経営改善研究会が平成20年に調査したもので、表1は自費と新患数、表2は自費とレセプト枚数の相関を示しています。

表1では自費率が5%以下の医院の74%は保険の新患数が減少していることを示しています。
表2では自費が減少している医院の65%は保険のレセプト枚数も減少しているということを示しています。
この2つの表から自費の増減は新患数や保険のレセプト枚数にも影響していることが分かります。自費を上げていくということは、医院の魅力度を高めるために差別化していくことにも通じるため、保険診療の患者様も自費対策が出来ている医院に流れていきます。
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著者プロフィール

ホワイトエッセンス株式会社
代表取締役 坂本 佳昭
日本最大の審美歯科チェーン「ホワイトエッセンス」の創業者。最新刊「院長依存から脱却できる医院組織のつくり方」を始めとし、執筆、取材、講演実績多数。